Week off ③ 5日目 サポーターと薬に頼ってなんとか下山

(注)このウィークオフ以降、山小屋日記が雑になっており、特にこのウィークオフ中はハイキングに忙しく1文字も残していません。数ヶ月経ったある日、写真を見ながら記憶に頼って書いています。

のんびり出発

朝8:25、山が朝日に照らされ表情を変えていくのをテントの窓から外を覗きます。

寝袋でぬくぬくしていると、外からはエリンとベッカの話し声が聞こえてきました。朝型の2人はのんびりかつテキパキと、朝食の準備を進めています。

朝型ではない私がのっそりテントから顔を出すと、エリンは早速お湯を沸かしています。今日もそう、エリンのコーヒーで1日が始まります。

▲ペンギンはみんなの姉貴キャサリンからのプレゼントで、ハイキングに毎回連れ回しています

10:00前、テントを撤収して出発。今日はハイキング最終日なので急ぐ必要はありません。出発前にはお決まりの4人での集合写真を撮影。

歩き始めの10分15分は「あの痛みは気のせいだったのかな」と私の膝は昨日の痛みをすっかり忘れ、いつものように足がスイスイ動きます。が、しかし、10kg以上あるザックを担いで岩場をアップにダウンしていれば、すぐに痛みは戻ってきます。

それでも沢山写真は撮りたいですし、この景色は楽しみたい。あぁ、でも膝、痛い・・・。

シェルターでお留守番

昨日ベンと別れたルートバーントラック正規のルートとの分岐点に到着すると、あたり一面はガスに覆われています。“サドル”であるこの場所は雲が常に流れているので、じっとしていると体は冷えます。私たちはシェルターへ入って、一旦休憩。

私は膝の調子がやっぱり良くないと皆に伝えます。このシェルターからは正規のルートを再度外れてコニカル・ヒルに行く予定だったのですが、私はやめておくと正直に話します。私は皆の荷物の番ということで、シェルターでお留守番。

きっと、コニカル・ヒルはこの4日間のハイキングの中でも見どころの1つとなる箇所であり、ガスの中でも少し標高を上げれば雲の上、ということはありえるでしょう。膝の痛みを我慢してでもいくべきかと何度も自分に問いましたが、「やめとけ」という心の声に従うことにします。今いるシェルターから駐車場までの道は歩いたことがあるので、この後下りがずっと続くのは知っています。コニカル・ヒルへ登ることはできても、降りは辛いはずです。その痛みを抱えてこの先の道を歩くことを想像するだけでゾッとします。

コニカル・ヒルは前回ルートバーントラックを歩いた時も実は登りませんでした。その時は、雨に打たれながら歩いた後、ヒルにいくかどうかの選択を迫られ、ガスではなくしっかりと雲の中だったので、行かないことにしたのです。ルートバーントラックは2回目ですが飽きる気はしませんし、またきっとくるはず。その時に万全な状態で、無理なく登りたいです。

おやつを食べ、ストレッチをしながら、シェルターにやってくる人たちと会話を交わし、ハイカーたちが食べているものを観察しながら、待つこと1、2時間。大満足した様子で3人はシェルターに帰ってきました。やはり雲の上だったそうで、しばらく景色を楽しんできたよ!と。雲海の上に立ちたかったなあと少しは思いますが後悔はしていません。

エリン「さやか、膝はどお?だいじょうブ?」膝の調子を皆に説明していると、それを聞いていたハイカーの1人が声をかけてきました。「よかったら、このサポーター使わない?念の為持ってきたんだけど、使わないからさ。僕も前に膝を壊したからよくわかるんだ」ハイキングを終えた後は私たちと同じくテアナウに行くようなので、そこで返すと約束をして連絡先を交換します。「ありがとう、本当に助かります!」遠慮なく、この膝の痛みを少しでも軽減できるのならと早速サポーターをつけてみます。

ハリスサドルカフェ

シェルターを後にすると、目の前に現れたのは、ガイドのアレックス。「さやかさーん、どーもどーも〜!」簡単な日本語が話せるアレックスは、いつもの笑顔でお客さんを先導しながらこちらへやってきます。

「よかったらお茶でもコーヒーでも飲まない?ハリスサドルカフェに寄って行きなよ〜」

私たちが休んだシェルターはDOC管理の小屋で誰もが出入りできるようになっています。その隣にもう一つある小屋が、私たちが働く会社管理のシェルター。中はDOCの小屋より少し小さめですが、ガイドがお客さんに提供するためのお茶が置いてあり、お湯を沸かすためにガスもありますし、裏にはトイレットペーパーが設置されたトイレまであります。

お言葉に甘え、私たち4人ハリスサドルカフェにお邪魔することに。アレックスの他、ニックというガイドも一緒で、私たちエリンとリリーはウィークオフでここを歩いていて、ベッカはエリンの友達で、と自己紹介します。なんと彼は、私たち全員が知っているベテランガイド、スージーの息子さんだそうです。親子でガイドをしているとは知りませんでした。

コーヒーやココアをご馳走になりながら、これまで歩いてきた道の話をしたり、ガイドの話を聞いたり。小屋では毎日のようにドラマが繰り広げられていますが、ガイドはガイドで大変そうです。「元々は今頃、3人の働く小屋に今日行くはずだったんだけどさ、色々あって今はここにいるよ。この後は〜」ガイドの人手不足というのもあり、お客さんを通しでガイドするのが通常ですが、アレックスは小屋の間を行ったり来たりして人が足りていない場所を行き来しているようです。

立ち止まりながらマッケンジー湖へ

カフェを離れ、さ、出発。次こそは前は進みます。

やはりしばらく足を休めたからでしょうか。サポーターのおかげでしょうか。歩き始めは今回も調子が良いです。

・・・。

いや、痛い。

すぐに痛みは戻ってきます。足元は、走り出したくなるような道が延びています。本当に本当に歩きやすいこんな道をひいひい言いながら歩く日が来るなんて思ってもいませんでした。膝が痛むという人は登山をしているとよく見かけますが、以前は膝の痛みを知らなかったので、自分ごととして考えたことはありませんでした。

片方の足のただ一箇所が痛いだけで、こんなにも歩くスピードが落ちるとは思ってもいませんでした。何の心配もなく歩けること、荷物を担いでハイキングができること、登山を趣味として楽しめること、なんだか全てのことに対して感謝の気持ちが湧いてきます。と同時に足の痛みを少なくするためにどこにどう足を置いたらいいのか、一歩一歩、頭で考えながら右足、左足を前に出します。「右足をここに置けば膝が痛くないだろうから、左足をまずここに置いて・・・」と逆算をすることも多々。

それでも景色は見たい・・・。人間欲張りです。ガスは常に動いており景色が見え隠れするので、その都度カメラに収めます。

黙々と歩いていると、日本人らしき人にすれ違います。彼女が着ているのは私たちの働く会社のユニフォーム。考えるより先に声が出ます。「あやかさんですか?!わたし、さやかです!」このトラックに、日本人のガイドの方がいると聞いていたのですがまだあったことも話したこともなかったので、今回会えて嬉しさのあまり、唐突にも話しかけてしまいました。

びっくりしているあやかさんには、またいつか会えたらいいですね、と少しだけ会話してお別れ。

1時間半ほど歩き続けた頃、マッケンジー湖が現れます。瞬きするごとに変わる景色を収めるため、そして膝を休めるため、ゆっくりゆっくり降りていきます。

ベッカはとても心配してくれ、痛み止めがあるから飲みたくなったらいつでも言って、と。マッケンジー湖で休憩するときにもらおうかな、と伝えます。

昼食、そしてお昼寝

足を引きずるようにして到着したマッケンジー湖。前回は曇り空でしたが、今日はそんな私を励ますかのような天気です。

最初は泳ぐと言っていたベッカとリリーですがお昼寝モードのスイッチが入り、皆で昼ごはんを食べた後はお昼寝。テントを乾かしのんびりする私の隣で、エリンは荷物を整え、1人で歩く時間が欲しいとのことで先に出発することに。

私はベッカに薬をもらって飲んでみることにします。

マッケンジー湖のそばにある系列の小屋にここでも寄り道し、私とリリーは水を汲ませてもらい、お菓子もいただきます。

樹林帯の中へ

ここからは徐々に樹林帯の中へと戻っていきます。陽は傾き始め、この4日間にわたるハイクも終点が近づいているということになります。ベッカの薬のおかげで痛みは大分ごまかせまていますが、それでも痛いことに変わりはありません。

樹林帯の中を歩くとはいえ、ルートバーントラックは本当に飽きることのないトラックで、開けた場所からの景色に足を止めたり、大きな滝が目の前に現れたり。

途中、あちこち行ったり来たり忙しいアレックスにもまた会いました。「ど〜もど〜も〜〜!」そして、ニックの母、スージーにも。「私は今回息子の後ろのグループ(翌日出発のグループ)をガイドしてるのよ。あら、ニックに会った?ハイキングはどうだった?」

そして、19:00を回る頃、3日前に来た場所へと戻ってきます。あの、分岐点です。

ここからは、私とリリーは一緒に歩き、ベッカは先に行きます。リリーはここまで一緒に歩いたんだからゴールも一緒じゃないとね、とペースが遅い私を励ましながら隣を歩いてくれます。

そして20:10、3日前に私たちのハイクがはじまった駐車場に到着。

あーーー!終わった!ベッドで寝たい、風呂に入りたい、足を休めたい!

駐車場では、ハイキングはとうの昔に終え、着替えたエリンが皆の夕食を準備して待ってくれていました。

▲「まずはね、スープから。メインはその後だヨ」

シャワーを浴びるか浴びないか

駐車場を離れる頃には辺りは真っ暗に。エリンと私は、なんとしてでもシャワーに浴びたいということで、キャンプ場へ行ってテントを張り、シャワーを浴びようという話になります。

私「シャワー浴びたい!こんな汗臭いのみんなに申し訳ないよ。私なんて川で泳がなかったし、足洗ったくらいだし!」エリン「私たちは泳いでない組だもんね。でも、さやかは偉いネ。私はみんなじゃなくて、自分自身に申し訳ないと思うヨ。自分の身体労ってやらないとネ」

食事の後片付けをし、エリンとベッカ、私とリリーに分かれて車でキャンプ場へ向かいます。リリーは数日ぶりの運転が新鮮なようで、とても嬉しそうですし、余韻に浸って顔から笑みがこぼれ落ちているのが真っ暗な車内の中でも手を取るように伝わってきます。

キャンプ場では車のライトで照らしながらテントを張り、寝る支度をします。エリン「なんだかシャワーどうでも良くなっちゃったネ」リリーも「もう今日はシャワーはいっかな」と言った感じ。ベッカは特に気にしてなさそうです。私もシャワーに行けるように準備はしていましたが、シャワーを浴びないといけないという使命感より、めんどくさいという気持ちがどんどん大きくなってきました。

結局今日は大人しく寝ることにして、シャワーは明日。「みんな臭いから大丈夫だよ」「私、誰も臭いと思わないよ」「私も何も臭わない!」

ハイキングは終えましたが、今日もそんな私たちはテントの中で寝ます。昨日までと違うのは車の音が聞こえてくるということです。

▲4人で歩けたことに感謝

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