【16日目】休日出勤

 朝3:00台、5:00台、6:00台、まだまだ寝れる、と何度もスマホで時間を確認しては、眠りにつき、8:00過ぎ、みんなのお母さんエミリーの声が私の部屋のあるスタッフの棟に響き渡ります。「おはようさん〜さやか!起きてるかしら?オレンジジュース持ってきたわよ〜、入ってもいい?」夢を見ている真っ最中の私は、夢を切り上げ、その声に飛び起きます。この瞬間何が起こっているのか一旦頭の中を整理。

ボサボサの髪、開かない目でドアを開けると、朝から真夏の太陽のようなお母さんエミリー「Guess what ? It’s YES. You are going!」隣の小屋へ、道中でリタイアしたお客さんをピックアップしに行くことになりました。今日はday offのはずでしたが、休日出勤です。お金が発生するので、良し。顔を洗って朝ごはんを食べにスタッフルームへ行くと、皆声をかけてくれます。愉快なchefケイシー「おはよう、調子はどう?眠いのなら、断ればいいだけ!無理しなくていいんだよ!休みなんだから!」みんなの姉貴キャサリン「入ってくるお金のこと考えな、歩くだけで給料もらえるんだからね。昨日私も休みでお客さんを迎えに行ったけど、お金のために歩いたよ」

急がず、私の準備が整い次第の出発でいいと言われたので、サンドイッチを食べ、レインウェアを着て、9:20頃、無線を持たされて小屋を出発。無線からは絶えずガイド、小屋間のやりとりが流れてきます。「⚫︎⚫︎小屋、⚫︎⚫︎小屋、こちらジョージ」「Go aheadジョージ」「今どの辺?」「○○を少し前に出たところ」「Copy that

外は変わらず雨、寒くなく風もないので、雨を楽しみながら歩くことができそうです。もちろん濡れますが。ピックアップする予定のお客さんがなぜリタイアし、こちらに戻ってきたいのか、はっきりした理由はみんなのお母さんエミリーも分からないそうですが、そのお客さんが男性であること、ペースがゆっくりであり先に進まないという選択をしたこと、隣の小屋のスタッフ(誰なのかはわかりません)が付き添いで一緒に歩いていること、少なくともこの3つは分かっています。

私の働く小屋から隣の小屋までの距離は16km2/3ほど行ったところでしょうか、景色が開け、滝が両手に見え、池がところどころにある場所があり、そこまで行きたいなと思っていましたが、残念ながらそれより手前でスタッフとお客さんに落ち合うことができました。

隣の小屋のスタッフは、先週小屋に遊びに行った時に小屋の中を案内してくれた女の子でした。「さやこ!どう、元気?ここからよろしくね!こちらお客さんのベンよ。ベン、こちらがさやこよ!」さやかと何度も言い返しますが()、私の発音がさやこに聞こえるようです。

ベンは長身で、特に調子が悪そうでも、疲れているようでもなさそうです。歩きながら聞いてみると、彼は80歳。平坦な道を歩くのは問題ないけれど、隣の小屋から先、ピーク地点に向けての坂の途中で、自分には厳しいと判断しリタイアした、とのこと。登りも下りも、彼にとって坂道は難しいようです。とは言え、彼を先頭に一緒に歩きましたが、足が長いのもあり、そこそこ速く、80歳の足取りとは思えません。私が考え事や植物観察しながら歩くペースと比較すれば倍速以上です。

このトラックは初めてですか、と聞いてみると、52年前、つまり彼が私くらいの年だった頃歩いたことがあるそうで、他にもニュージーランドのトラックを歩いたことがあるそうです。「今はもうそんなに歩かないんだけどね、もっぱらゴルフだよ」

ベンなら知ってるんじゃないか、と思い、彼を迎えに行く途中、見た花や植物の話をすると、それらの名前を教えてくれました。言葉数は多くはありませんが、私が聞くと立ち止まり、これはね、と教えてくれます。チリのカタリーナもそうですが、彼も目がこどものようにキラキラしていて、少しグレーがかった薄いエメラルドグリーン色です。その目で52年前このトラックを歩いた時、どんな景色を見たのでしょうか。昔のことでそんなに覚えたないんだよ、と言っていました。

 

小屋でcookの仕事をしているとお客さんと話すことは一切と言っていいほど機会がないので、2時間足らずでしたが一緒に歩けたのは、貴重な時間でした。

小屋に着くなり皆に「How was your walk?」と聞かれます。みんなの姉貴キャサリン「去年なんかシーズン通してリタイアするお客さん3人しかいなかったのに、今年は多いねぇ〜」なぜでしょうか、コロナも関係しているような気もします。日本でも登山の知識がないお客さんが、山小屋に来ては突拍子もない質問をしてきたり、軽装備での登山者が増えたりと、山に入る人たちのレベルが一昔前とは異なってきているようです。

濡れた服や靴を乾燥室で乾かし、昨日のあまりのケチャップライスを食べた後は、スタッフルームでミロを飲みのんびりします。チリのカタリーナ「マテ飲みたい人いるー?」迷わず私は挙手。今日はマテの中にオレンジの皮を入れて飲みました。みんなの姉貴キャサリンも好きなようで、3人で回しながら飲みます。キウイの物静かなアニーもやってきて初めてのマテを飲んでいましたが「草の味。嫌いじゃないかな」と言っていました。特別気に入ったような表情もしていません。

雨は降り続き、また外に出て散歩する気分にもならずスタッフルームで、ガイドが時々配達してくれる新聞のSudokuをやってみたり、メールをチェックします。そこへやってきたみんなのお母さんエミリー「さやか、これ、読んでちょうだい。良かったらサインして明日までに私に持ってきてちょうだい。」渡された紙を広げて読んでみると、給料に関しての書面で、11/28〜少なくとも12月の終わりまでcookとして働き、日給は250NZDとする、と書かれています。

Lodge attendantの日給は204NZD、週、月単位で考えると結構な差額です。マネージャーやみんなのお母さんエミリー、愉快なchefケイシーに相談して良かった、、、。日本の日給に比べれば、204NZDさえ高額ですが、cookの額を受け取ることができるのならもちろん貰いたいところです。それから、振込先の口座についてのやり取りもメールの返事が来ていました。これで無事に口座に振り込まれるはずです。

17:00、夕食を食べた後は、何度も書きますが、部屋は寒いし薄暗いのでスタッフルームに居座ることに。チリのカタリーナが飲んでいいよと置いて行ってくれたマテを飲みながら、スタッフやガイドが入れ替わり立ち替わりやってきては夕食を食べ、交わす会話を聞きながらぼーっとします。皆がいなくなったところでやってきたのは、のっぽな山屋ミック。気づけば1時間ほど話していました。

何を勉強してきたのか、彼の専攻であった映画について、ジブリ映画について(火垂るの墓が好きだそうです)、私が留学していたアメリカの学校のこと。他のスタッフとの軽い会話と違ってくねくねと先の見えない山道を歩くように会話が進んでいくのが、新鮮でした。んー、しかし自分の語彙力のなさにうんざりです、話したくても言葉が出てきません。ニュージーランドに来る前に映画やドラマを見るだけでなく、しっかり勉強し直すべきでした。

私は聞いて話すよりも、読み書きの方が得意だと思っているのですが、彼は真反対。書きたいけれど苦手だと言っていました。自分の考えを文字にするより言葉にする方が得意なのなら、自分の声を録音して文字に起こせばいいのでは、と話すとそれは面白いideaだね、と。この話はよく日本人ともするのですが、私は彼のような考えをすらすらと話せる人が羨ましいと感じます。

結局、21:00頃までスタッフルームでダラダラと仕事が終わったスタッフとおしゃべりしながら過ごしました。あぁ、休みが終わる、、、。

寝る前にと、スタッフルームに行きお白湯を飲んでいると、小屋に来てから見かけるのは2回目、日本人っぽいガイドの方にすれ違いました。これまで話しかけるタイミングがなく、今がチャンスと思い日本の方ですか?と日本語で話しかけると、やはりそうで、ガイドは今年1年目、ニュージーランド歴は8年目だそうです。その方に聞くと、4人の日本人がガイドとして働いているようです。おそらくロッジで働いているのは私だけ。

消灯も近かったので、またゆっくり話しましょうということで、自分の部屋へ戻ります。この会社でガイドをする前はマウントクックで働いていたそうなので、違うフィールドでの仕事の話を聞けるのが楽しみです。

▲今日の定点観察

 

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