雨が降るP小屋
Week off 3日目の朝、6:00に部屋の電気がパッとついて、嫌でも目が覚めます。発電機が6:00にオンになるP小屋は、私の働くM小屋と1日のスケジュールが違い、1時間半ほど全てが早く始まります。お客さんの行動時間に合わせて発電機のオン・オフの時間が決まるので、小屋によってスケジュールは異なるのです。
先輩は私より先にベッドから抜け出しドアを開けて外の様子を確認。うん。雨。Mパスはなしだねと再確認し、ゆっくり着替え、歯を磨き、ラウンジに行って朝ごはんをお客さんと一緒にいただき、昼ごはんのサンドイッチを作ります。まず、朝ごはんですが、私には見慣れたニュージーランドの朝ごはんメニューが並びます。M小屋と同じポレッジにポーチドエッグ、ベーコン、マフィン。私たちはトマトとマッシュルームそれぞれをローストしたものもありますが、P小屋では豆の缶詰を温めたものが並んでいます(これはG小屋でも使っていました)。温かい食事のほか、シリアルやヨーグルト、缶詰のフルーツ、牛乳、オレンジジュース、コーヒーなんかもずらりと置いてあります。
昼ごはんのサンドイッチというのは、M小屋もP小屋も、それ以外の小屋も全て同じシステムですが、テーブルにパンと具材、まな板が並べられ、自分の好きな具を詰めてサンドイッチを作ることができるようになっています。私も先輩も、昼ごはんのサンドイッチを作っておいた方が、P小屋のスタッフに気を遣わなくていいかな、ということでお客さんに混じっひとつ作ります。

お腹を満たした後、外を眺めるも、雲が広がり雨はしとしと降り続きます。せっかく2泊できるのにMパスに行かないなんて残念ですが、濡れるのは私も先輩も嫌です。結局午前中はスタッフルームで他のスタッフとおしゃべりしたり、私は一番近い湖まで散歩、先輩は朝寝をしてこれまでの長旅の疲れを取ります。
午後はりんかちゃんが休憩に入るということで、3人で小屋周辺の散歩も考えていましたが、雨のため中止。食べて寝ておしゃべりして、ダラダラと進んでいく時間、休みならではです。仕事中はあんなに時計の針が進むのが早いのに、何にもしていないと時間が経つのが遅いったらありゃしません。

▲Mパス方面は1日中雲がかかったままでした

ケイシーの夕食、そしてCATAN
スタッフディナーの時間は17:30。今日もケイシーが作るご飯です。食べ逃すわけには行きませんから、時間きっかりにスタッフルームに向かいます。先輩もしっかりと昨日の夕食でケイシーに胃袋を掴まれた模様。今日はなんのご飯だろう?!とワクワクです。
夕食のメニューはサラダに手作りのチーズパン、りんかちゃんがニュージーランドでゲットしたという麹を使ってスロークックされた牛肉、カリフラワーとパプリカのロースト。ん〜〜〜どれも美味しくて、ご馳走です。レストランのレベルさえ超えています。ありがとう、ケイシー。
スタッフディナーのあとはすぐに、お客さんのディナーサービスが始まります。私たちは忙しなくなるエリアから離れ、ちょうどキッチンの中を覗くことができる場所から、ケイシーや他のスタッフが手際よくメインのお皿を盛り付けている姿を眺めます。
スタッフ全員のシフトが終わり、落ち着いたスタッフルームには人がぽつりぽつりと集まってきます。P小屋の数少ない男性スタッフ、ベンが「CATANしない?」と誘ってくれ、ボードゲームに参加。みんなからの愛されキャラの彼には自然と人が集まってきます。彼はルールがわからない人にも説明をしながら、ゲームをしきり場を盛り上げてくれます。私自身CATANは数回目、勝つことはできませんでしたが、P小屋の皆と楽しい夜になりました。
16kmの道のり
Week off 4日目、私たちはP小屋を出て、16km歩きボートに乗ってテアナウに戻る日です。先は長いのでボートに乗り遅れないよう12時前には出発しようと、朝はゆっくり過ごします。お休みのケイシーと少しおしゃべりしたり、りんかちゃんのcookの仕事の様子を先輩と覗いてみたり、Mパス方向へ少しお散歩してみたり。外は、雨が止んで青空が広がります。夕方は雨予報ですが、私たちが歩く時間はレインウェアは着なくて良さそうです。

私と先輩は12時前に、お世話になったケイトに挨拶をし、小屋を離れます。しばらく歩くと、後ろから追いかけてくるりんかちゃん。彼女は明日からウィークオフで、今晩はG小屋に泊まることになっているそうです。一緒にG小屋までの16kmの道をおしゃべりしながら歩きます。
私はなぜか、ランニングは気持ちいですよと先輩に語り出してしまい、その話にりんかちゃんも巻き込みます。りんかちゃんも小屋周辺を走るのは好きだそうで、走ることの良さを2人で押し売りします。「走ると頭がスッキリするんですよね」と彼女。私も全く同じようなことを数十分前に先輩に伝えたばかりで、先輩は「やっぱりそうなんだ〜」とランニングを始めようかな、と洗脳されつつあります。「この夏日本の山小屋の周り、ぜひ走ってみてください!!!」
そんな話をしながら歩く道中、すれ違うガイドは顔見知りばかり。まみさんと話し込んでしまったり、数年ぶりに会うベテランガイドと久しぶりに話したり。おしゃべりは止まりません。
数時間過ぎた頃、そろそろ急足で歩かないともしかしてヤバいんじゃないかと思い、時計をみると、ボートの時間まで1時間を切っていることに気づきます。トラック上にある距離のサインはあと6.4km。急足で歩いても間に合わないかもしれない・・・と、やっと焦りだす私。先輩とりんかちゃんはおしゃべりしており、後ろを振り向いても姿は見えません。焦り出したら“平坦な道”は歩くのがそこそこ速い私は、2人を待つより歩き続けないと「本当にヤバい」と思い、小走りと速歩きを繰り返します。すると先輩が走って私のところにやってきます。「先輩!ヤバいかもしれません!看板はここからボート乗り場まであと1時間半って書いてありますが、30分で行きます!お願いします!!!ランニングは気持ちいいとあれだけ話しましたが、(今日は重い荷物を背負っているので)走るの嫌いになるかもしれません!すみません!」と私。心の中では、やらかしたぁ〜とすでに諦めモードな私と、きっと間に合うという私、ちょっとくらい遅れてもボート待っててくれるでしょ、乗船者のリスト持ってるだろうし、なんとかなる!という私。
ボートに乗り遅れるかも
私は息が上らないペースでズンズン進みます。すると雨まで降り出す始末・・・。これこそmiserable。頼む、雨は止んでくれ!先輩の姿は後ろに見えません。こうなったら私が先に行ってボートの運転手に待ってもらえますかとお願いするしかありません。もしボートに乗り遅れたら、G小屋に泊まらせてくださいと言わなければなりませんが、ガストロ事件でそんな雰囲気ではありません。気まずいだけなので、なんとしてでもボートに乗りたい。
うーんと、いや待てよ・・・。
もしかしたら、ランナーや釣りをする人が乗るウォータータクシーが止まっているかも。G小屋で働いていた時、船着場まで散歩に行tたり、ボートに乗る時、よくウォータータクシーが停まっていたような。そんな光景が頭にぱっと浮かび上がります。さすが私。ウォータータクシーが見当たらなかったとしてもG小屋で電話を貸してもらい、電話で呼べるんじゃ?
そんなことを考えながら、錘がついたように重くなってきた右足と左足に疲れる暇なんてない!と言い聞かせ、ペースを落とさないように前に進みます。
こういう時、時計の針のスピードはぐんと速まります。G小屋に到着したのはボートの出発時間3分前、15:57。ここから1km強あります。荷物がなく、良いコンディションでしたら走れば間に合うのは確実です。ここまで追い詰められた私なら10kg近い荷物を背負ってでもなんとか間に合うはず!と前だけを見て足を進めます。
G小屋の玄関では、ちょうどお客さんが到着し、ふうまくんがHシフト(ホスト)で出迎えています。私は彼にきちんと挨拶する暇もなく、「ボート間に合わないかもしれない!」と歩きながら少し離れた場所から叫び、「え!大丈夫ですか」と目を丸くするふうまくん。「走れ!!!!!!」と日本語で誰かも私に声をかけてくれます。きっとガイドのえりさんでしょう。走るしかないと思わせてくれる太く勢いのある声です。えりさんの姿は見えなかったけど誰だったんだろう・・・そんなことをグルグル考える余裕もなく、ヨイショ、ヨイショ、足を前に進めます。
ボートが出発する時は、エンジンがかかって低く鈍い音が一体に響き渡ります。この音は何度も聴いているので、遠くから聞こえてきてもすぐに私なら気づくはず。でも、いまのところまだ聞こえない・・・。きっと待ってくれてるんだ・・・。
ボート乗り場に近づくにつれて木が細くなり、木々の隙間からボート乗り場付近が見えるようになってきます。ボートはまだ出てなさそうだ、行ける!乗れる!よし!あそこまで走ればボート乗り場!2年前にここをよくランニングしていたので、ボート乗り場まであと少しだということは、よくわかっています。
すると急にボォーんと鳴り出すボートのエンジン音。いやいや、あれはエンジンがかかっただけで、出発はしてないはず。まだ出発時刻から3分しか過ぎてないし、日本なら置いて行かれても、ニュージーランドはそんなにせっかちじゃないはず。
しかし、その音はすぐに大きくなり、音の鳴る場所が動いているのがわかります。ボートが進行方向に向けて回転しているのです。諦めるのはまだ速いと最後の力を振り絞ってボート乗り場に到着、16:05です。そこから手を大きく振ってみます。気づいてくれてボートがUターンしてくれるはず!と。
プランB
そんなわけありません。3シーズン目にして初めて、ボートに乗り遅れました。私はしばらく手を降ってみましたがボートの姿は小さくなるばかり。諦めて、私あの頭の中をプランBに変更。ウォータータクシーの姿を探すことにします。船着場からは見えませんが、ちょっと歩けば離れたところに停まってるんじゃないかと思い、湖沿いをせっせと歩くと・・・
ありました!ウォータータクシー。しかし人の姿が見えません。
大小の石ころばかりの湖の辺りを、足を滑らせないように気をつけ、「どうか人がいてくれ!」と祈りながらウォータータクシーに接近していきます。私に気づいたのか、人がひょっこり窓から顔を出します。「すみません、こんにちは、ボートに乗り遅れたんですけど、テアナウまで連れて行ってもらえませんか。2人です。乗れますか? いくらでしょうか?」遅くら、私の口から出てきたのは、多分こんなセリフ。今や覚えていません。ペラペラと相手の返事を待たずに、一か八かな状態な私は、勢いで運転手らしき人にに話しかけます。
幸いいにも答えはYES。2時間は待つことになるけれど、1人100ドルで乗せていってくれるそうです。ありがたい。あー!よかった!!!
先輩はまだこの時点で船着場に到着しておらず、私は先輩にウォータータクシーの件を伝えるべく、船着場へ戻ります。すると、3日分の荷物を背負った先輩が現れました。「間に合いませんでした!!!!!」「てっきりさやちゃんがボートを止めてくれてると思ったよ!」「手を振りましたが無理でした!!!!!」ウォータータクシーの件を伝え、船着場はじっと待っていると三度フライがあっという間に数十匹集まってくるので、G小屋に戻りふうまくん、りんかちゃんにきちんと挨拶をすべく歩き始めます。
50分のウォータータクシーライド
予定よりも早く、ウォータータクシーは出発し、先輩と私、それから釣り人が1人、そして運転手の4人を乗せてテアナウ・ダウンズへと向かいます。こんなに小さなウォータータクシーに乗ったのは初めてです。風が強く波の高さもあるからか、ウォータータクシーの揺れが想像の5倍ほどあります。アトラクションに乗っているような、いや、それ以上の上下運動の連続です。しかし、気持ち悪くなることはなく、景色を楽しみながら、時々私の血を吸おうとするサンドフライを潰しながら、ライドを楽しみます。
そして、1時間後、振り落とされそうに上下に揺れるボートを降ります。運転手の彼には、「You saved our life!」と伝え、「本当に君たちラッキーだったよ」と笑顔をいただき先輩のレンタカーへと向かいます。ここからは、テアナウの町の中心まで30分、先輩に運転してもらいます。

先輩とパーティーのはずが・・・
2泊P小屋に宿泊して、Mパスにいって、テアナウに戻ってきたら2人でお酒でも飲んでパーティーしましょう!なんて話していたのですが・・・、まさかMパスは行けず、ボートにも乗り遅れ・・・そんなことになるとは思ってもいませんでした。
そして私は、ボート1時間からの車移動約30分で酔い始め、公共トイレへと駆け込みます。しかしお腹の中はからっぽ、特に出すものはありません。それでも吐き気が止まらずしばらく篭ってしまいます。きっと、ボートに乗る前に、長い道のりを急足で歩いたり走ったりしたのもよくなかったのでしょう。
少し歩いていると気分が良くなってきたので、レストランへ2人で入ることに。落ち着いたかなぁと思っていましたが、レストランの食べ物の匂いのせいか、すぐに気持ち悪くなってしまいトイレへ。それを何度も繰り返し、「あぁガストロだったらどうしよう」笑い話どころではありません。
結局レストラン滞在時間の半分以上は私はトイレに篭り、先輩には1人でご飯を食べさせてしまいました。私は1杯のジンジャーエールでさえ飲み切ることができず。
ここで、私は先輩と解散。先輩からは日本からのお土産もいただきます。しかし私の体は絶不調。後味が悪い別れとなってしまいました。先輩は数日後にM小屋に泊まる予定でしたが、ガストロ事件で、この様子では無理そうです。「確認して、また連絡しますね!」と伝え、もしかしたら会うのが最後になるかもしれないと思い、この後の旅も楽しんでくださいとお別れ。
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なんだか、今回のウィークオフはアドベンチャー感で溢れています。明日、どうか起きたら体調、よくなっていますように。そう願って、眠りにつきます。

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