私は乗り物酔いしやすい体質。子どもの頃はよく車で酔い、食後のドライブは美味しく胃袋に入ったはずのご飯がすぐ様に来た“道”を戻って体外へ。大人になってもその日の体調によっては頭から湯気が出ているのではないかと思うほど酔うことがいまだにあります。グライダークラブの方に、motion sickness=乗り物酔いが心配だと事前にメールで聞いたところ、sea-legsやcrystalized gingerがおすすめだとのことで、私は前日薬局で購入したsea-legs、錠剤の薬を飲んでおきました。こんな小さな薬が本当に効くんでしょうか。毎回薬を飲む度に思うんですが、半分以上は薬を飲んだから大丈夫という思い込みなのでは?!
グライダークラブへ
酔うんではなかろうかというのが唯一の不安。空を飛ぶことに対しての恐怖は全くありません。どんな1日になるのだろうかと、スカッと気持ちの良い青空の下、泊まっている宿から滑走場のあるグライダークラブへ20分ほど歩きます。

歩く私と同じタイミングで到着したのは、ずっとメールでやりとりしていた赤毛が素敵なキャシー。勝手に男性だと思い込んでいたので、彼女にあなたがさやかね、私があのメールのキャシー。と自己紹介をされたときはびっくり。大きなウォーターボトルにPC、それだけを抱えてタンクトップ姿でオフィスの中に向かう彼女、きっとニュージーランド人でしょう。私はユニクロのライトダウンの下に前々回のweek off中セカンドショップで手に入れたマーモットのフリースと厚着をしています。
さらにそこに現れたのはデンマーク人の若い男性。今日の生徒役は私と彼の2人のようです。彼はニュージーランドに数週間滞在していてニュージーランドで飛ぶのは初めて、デンマークやスウェーデン、スイスで過去に飛んだことがあるそうです。受付で書類の手続きをすませ、10時から講習室のようなところで天気に関しての説明が軽く行われます。そこに集まるのは、司会者のキャシーの他、天気の解説をするおじさん、私、デンマーク人の彼、その他に20人くらいいるでしょうか?彼らはグライダークラブの人たちなのでしょうか?そんなことを考えながらスクリーンに映し出された慣れない何種類もある天気図を眺めます。低気圧はニュージーランドから離れた海の上、東と西にそれぞれありますが、国内は全体的に晴れ、風も緩やかで天気の心配はなし、その程度しかわかりませんでした。風向きとか風速とか標高によっての天候について等もっと細かく説明していたようですが、よくわかりません・・・。
グライダーとの初対面!
天気に関してのブリーフィングが終わった後は、私の2日間のインストラクターとなるイギリス人のジェームスに付き添い、早速グライダーが眠る車庫(というのでしょうか?)へ向かいます。デンマーク人の彼には別のインストラクターがつき、私は朝彼に挨拶した後、夕方コースを終えるまで見かけることはありませんでした。無事飛んだのかな?!

ガラガラとこの大きな扉を開けると、グライダーが整列されており、早速ジェームスに1対1で機体の部位に関して名前や役割、どのように動くのか教えてもらいます。

とにかく、ワクワクが止まりません!思っていた以上に機体は軽く、そして翼は長く、これが空を飛ぶなんていまいちピンときません。
飛ぶのは午後からということで、2時間近く休憩をもらい、グライダーを眺めることができるカフェにて昼食をとります。休憩が長くて助かりました。食べてすぐに空を飛ぼうもんならハンバーガーが口から出てきたことでしょう。
First flight

13時、私はインストラクターのジェームスとグライダーを車庫から押して出し(2人の力で動くなんて、とても軽くないですか!)車に繋げ、滑走路まで移動させます。パラシュートをまずは装着し、グライダーに乗り込みます。万が一パラシュートを使わないと行けなくなった場合の説明もしっかりと受けます。想像しただけで怖い・・・。
そこにひょっこり現れたのはエミリー。彼女は6年ほど飛んでいるそうで、初めて飛んだのはいつですかと尋ねると15の時だといいます。彼女は21歳。グライダーのイメージがおじさまの優雅な趣味だったので(笑)、エミリーやキャシーを見て私の勝手な偏見が覆されます。飛びたい人が飛べる世界なんだな!とも。

グライダーはエンジンがありませんから、曳航機にロープで繋がれてけん引され離陸する方法、もしくはウィンチ曳航と呼ばれるものでワイヤーをグライダーにつけ、そのワイヤーを高速で巻き取って引っ張り上げるという方法があります。私は昨日から曳航機が上空を舞うのを見ていたので、その方法で離陸するのだとてっきり思っていました。
私が乗り込み、続いてジェームスが乗り込み、ウインチ担当の男性(だとはこの時よくわかっていませんでした)がロープを私たちの機体に付け、装着完了!とかなんとか安全確認をしています。私はそのロープが後から曳航機に繋がれるものだと思っていたので、「うん、、、いつ曳航機が目の前に現れるんだろう?いつ飛ぶんだろう?」と待っていると・・・

カラカラと機体についた小さな車輪で前に進み始め・・・
ぎゃあああああああ゛あ゛あああ゛あ゛ーーーーー!!!!!
ぶわんっ
キューーーーーーーーーっ
ひゃあああああああーーーーーーー!!!!!
さーーーーーーーーーーーーーーーーーっ。
気づけば空を飛んでいます。え、どういうこと?どういうこと?!何が起きた?!空に浮いてる?!空に浮いています・・・!
*
すみません、取り乱しました。えっと、もう一回、解説付きでいきます。
ぎゃあああああああ゛あ゛あああ゛あ゛ーーーーー!!!!!
(心の準備ができないまま高速でワイヤーに引っ張られ、慣性の法則でシートに背中がへばりつく)
ぶわんっ
(機体が急に浮く)
キューーーーーーーーーっ
(浮いた途端、45度いや、垂直なんじゃないだろうかという角度で標高を上げていく)
ひゃあああああああーーーーーーー!!!!!
(その角度と速さに心身ともに追いつけず思わず叫ぶ)
さーーーーーーーーーーーーーーーーーっ。
(機体は角度を保ち、風と共に飛び始め、風の音が聞こえる)
(((解説してみましたが伝わらないと思うので、気になる方はグライダーに乗ってみることを強くお勧めします。)))
さて、離陸はそんな感じでした。そしてその後はどんなふうに飛ぶのかというと、サーマルと言って熱上昇気流をつかまえて旋回しながら上へ上へ向かっていきます。常にこの角度で、目に見えない螺旋状のエレベーターを上っていると想像してみてください。私は今この文章を書きながら思い出しただけで体が傾きますし少し酔い始めてきました(嘘やん・・・)。

トンビが旋回している、まさにそんな気分です。その後は、何度か操縦をさせてもらいます。ほんの少しスティックを動かしペダルを踏んだだけで機体が傾き、向かう方向を変えることができます。グライダーは2人乗りで私は前方、インストラクターは後方に乗っており、どちらの座席にも同じペダルにスティック、高度計や速度計などがついており、どちらかがスティックを動かせば連動してもう一つのスティックも動くようになっています。
私が操縦していない間は、ジェームスが何をどう動かしているのかわかるのですが、常に細かな動きをしています。「車の運転と同じだよ」といいますが、私はペーパードライバー(苦笑)。風の影響で翼が傾いたらスティックをどちらに動かすのか、スティックを動かした時にはペダルをどのくらい踏み込むのか。目で見て、身体でもそれを感じ、頭でうーんと考えてスティックとペダルを動かす。この一連の流れをよくつかめないまま1回目の飛行を終了。
2回目、7000ftへ
着陸したかと思えばすぐに飛ぼうか!というジェームス。無駄な話はしない彼はあまり笑いはしませんが、飛ぶのが本当に好きな人なんだなと、一緒にいるだけでわかります。25年以上飛んできて飛行時間は1200時間以上だそうです。1回目の飛行はrubbishだったと言っていますが、空に浮いただけで満足な私には、何がrubbishだったのかよくわかりません。
2回目は、離陸する瞬間の感覚が恐怖を通り越して興奮するので(笑)、わくわくしながらグライダーに乗り込みます。しかし1回目と2回目の感覚が短いです。酔うんじゃなかろうかと不安も少しあります。
2回目の飛行も大きく円をかきながら上へ上へとサーマルをつかまえて昇っていきます。1回目よりも高い地点まできました。高度計は7000フィートを指しています。つまり2300mほどでしょうか。それでも働いていた大天荘よりも低いのか、すぐに山や山小屋で考えてしまいます。

何度もバンピングしながらこれがサーマルだ!というジェームスの操縦に任せ、上へ上へ。遠くの山はマウントクック方面、そしてレイクプカキ、レイクオハウがはっきりと見えます。

何階分のエレベーターを昇った頃でしょうか。気分が悪くなり始めます。まだ大丈夫なのはわかっていますが、これを続けると確実に頭から湯気が出るか食べ物が口から出てくるはず。そんなときジェームスは「You have a control」と。こう言われたら私が操縦するという合図。
スティックとペダル、翼と目に見えない空気の流れに集中すると一気に気分の悪さは消えていき、私の全神経がアンテナを張りはじめます。ジェームスの指示通り右・左に曲がってみたり、まっすぐ飛んでみたり。想像以上にまっすぐ飛ぶこと、右に曲がること、左に曲がることが難しいです。頭はもちろん、普段使わない何かをフルで使っている感覚です。(車の運転でもこの感覚は使わなかった気がします)これはただ単なるおじさんたちの優雅な趣味ではないことがここでよくわかりました。こりゃあ、立派なスポーツだな・・・。
「Okay now I have a control」とジェームスに言われ、私はそのアンテナのスイッチをOFF。すると一瞬にして戻ってくる酔い。私はあの山はどこだろうとか、ジェームスの操縦について考えることをやめ、自分は風に任せて飛んでいるんだと、頭の中を空っぽにさせます。そうでもしないとすぐに酔いが酷くなるので。ジェームスはさらにさらに上へと向かうようサーマルをつかまえようとしていますが、私は勇気を出して「気分が悪くなってきました」と彼に伝えます。彼はすぐに着陸するため標高を下げていき、滑走路に向かって飛び始めます。7000ft近くから1400ftの地上まで急降下。私の耳はついていけず、鼓膜が破裂するんではなかろうかという痛みに耐えながら、無事着陸。何度唾を飲み込んでもあくびをしてみたりしても、耳は痛くてたまりません。聞こえなくなったらどうしよう・・・?!(結局この後2、3時間した後耳の痛みと違和感が消えました)
着陸した後は2人でグライダーの翼に張り付いた虫を拭き上げ掃除して、オフィスへ戻ります。どうだった?とキャシー。酔ったこと以外は楽しかった!と伝えます。飛んだ記録がiPadに残るようで、飛行時間は1回目27分。2回目44分。そんなに長くグライダーで空を舞っていたんですね。
新しい世界
楽しかった、とキャシーには伝えましたが、正直に書くと楽しいとは違う感覚でした。このブログを書いている今もあの感情はなんだったのか、よくわからないままです。グライダーで空を飛んでいたあの感覚は、飛行機にもヘリコプターにもありません。雲海を目の前に稜線に立った時のあの感覚とも違います。風の力を利用して浮いているだけ、舞っているだけ、それだけかもしれませんが、なぜか違う世界に足を踏み入れた気がするのです。地上が1階、山が2階〜3階だとすると飛行機は10階。4階〜9階はいつも見ているはずなのに、行ったことのない世界。そこに足を突っ込んでみると、1階〜3階、10階の常識が通用しない、あたらしい世界が広がっていた、そんな感じです。そんな世界を無理やり頭で理解しようとして、疲れたというのが正しいかもしれません。
今こうやって文章に起こすのも疲れてきたので(笑)、今日のところはこの辺で。はじめての体験、今日しか書けない文章を一応残すことができたのでこれで良い事にしましょう。ここまで読んでくださりありがとうございました。
明日は少しは身体が慣れて長く飛べることを期待しています。

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