朝、ゆっくりと起きる。小屋に来てからは6時には起きていたので、今日くらい遅起きでも良いだろう。8時頃、よっこいせと本館に向かう。お天気は曇り。雨も降りそうだ。
昨日は、これから1ヶ月もやっていけるのかと負の感情で一杯一杯、風船がはち切れそうだった。朝起きるとだいぶん消化できたようで、今日はきっと大丈夫、そう思いながら、掃除に取り掛かる。明日の夕方にはお客さんがいらっしゃる。また、お客さんに出すお食事は、街でお店を持っている方が仕込みをしてわざわざ山に上がってきて料理をしてくださる。つまり私は料理に関してはノータッチ。料理人と言われる人は、夫婦でお昼頃に上がってくるとのこと。彼らの泊まるお部屋の準備もしておかねばならない。
掃除は、やり始めればキリがないので、優先順位の高いものから順に進める。なんとか終わった気がする。いや、ここで終わりにしておこう。ここでは1ヶ月間私がなんでも決めていい。私が「掃除はここまで」と思えばそこで終えていい。掃除のやり方が違うとか、掃除の仕方が気に食わないとか、他の人のことを心配しなくていい。時間の管理も私が適当にやっていい。その辺のストレスはないかもしれない。
いや、正直に書くと、ストレスがかかっていない状態がストレスになりうるかもしれないと気づいた。自分で自分を律しないと、ここでの仕事はやっていけない。座ってお茶を飲むのも携帯をいじるのも監視カメラがある訳でもないし、本当に自由。私という人間は、ストレスが少々かかった状態だからこそ、仕事を真面目にやるのであって、そうでなければ、いくらでもダラけられるのかもしれない。ダラけてしまった後に悔やみ、ストレスを感じてしまう。
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今日は誰も来ないと思っていたが、お昼頃、1人のおじちゃんがやってきた。そう、今日もおじちゃんである。Iさんは、水の点検をMさんに頼まれてやってきた。私も水のこと聞いておいてと言われていたので、Iさんに塩素水の機械について学ぶ。小屋に流れる水のパイプがギュッと詰まった、小屋の裏にあるボロい建物の中に入る。とてもボロい。パイプがどこからどこに流れていて、一つ一つの機械がなんなのかちんぷんかんぷんだが、おじちゃんはそのうちの一つの機械を指差し、これはね、と説明をしはじめる。わからないながらも一通り説明を聞いてみる。なんとなくわかったが・・・わからないことの方が多いので遠慮せずに質問をする。「これはなんですか」「こっちはなんですか」「これはどこに繋がってますか」「これは砂利を除去して」「こっちは泥をとって」「こうすると逆流して」「これが新館につながって」「これは一分間に流れている水の量を示していて」
塩素の原液は、タンクの中に水と一緒に入れられ、塩素水となり、その塩素水を一定の比率もしくは定量で小屋を巡る水道のパイプの中に送り込まれていく。この塩素水の残量が少なくなったら、塩素の原液をタンクの中に補給してほしいとのこと。補給した際に、一定の濃度かどうか確認する方法も教えてもらった。
今までの山小屋生活で、水のことだけでなく、発電機や電気、ボイラー、ガス、生活に欠かせないこれらのことについて、支配人やマネージャーがやっているのをなんとなく見てきた。もちろん小屋によってそれぞれの機械があるしやり方も違う。いずれにしろ私には責任がないので、それぞれのことに関して断片的な知識しかない。なので、今回塩素水を送り込んでいるこの機械について説明を聞くのは初めてだった。
Iさんも、とても良い方で彼も敬語で私に話しかけてくれる。なんでこんなにも丁寧な人ばかりやってくるのだろう。AさんもSさんもそうだった。私も歳をとった時に、自分の歳の半分以下の人に対して敬語で、相手のことを見下すことなく話せるだろうか。接客業をしていると、タメ口以下のような言葉で話しかけることだってある。そんな時、本当に嫌な気分になるし、私はこんな大人に絶対なりたくないと思う。いや、とっくの昔に大人か。
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Iさんとお話しして、だいぶん気分が明るくなった。人と会話することがどれだけ人間に必要なことなのか、私は34年間知らずに生きてきたのかもしれない。
【本日会話をした人間の数、1人】


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