やっと入山
3日目、朝8:00にはラウンジ集合ということで8:00前、寒い寒いと独り言を言いながら、ラウンジへ向かいます。外は昨晩から続いた雪で真っ白、定規で測ると18cm。集合して何かしらするのかと思えば、8:00過ぎてからラウンジに現れる人がいるのはもちろん、朝ご飯を作り始める人もいます(食べ始めるではなく、作り始める)。何かが始まる気配はなく、私とブリッジは小屋から数十秒歩けば滝が見えるので、たくさん着込み手にはテムレスをつけて外の空気を吸いに行くことに。小屋に戻っても状況は変わっておらず、9:00前、F小屋のマネージャーがヘリパッドで集合写真を撮ろうと声をかけます。

その後も、M小屋スタッフは手持ち無沙汰。ラウンジで外の景色を眺めながらヘリはいつくるんだろうか、無線での連絡はまだかと待つだけです。M小屋の1人、エリーは「such a crazy experience」とぼやいています。確かに山小屋生活が初めての人からしたらそうでしょう・・・。半年間の荷物を、2、3つのバックに全てまとめ、ヘリで入山下山。いつヘリが動くのかもわからず、天気に左右されながらこの数日過ごしています。
10:00頃無線が入り、私たちM小屋スタッフが移動できる事に。ヘリに、私とブリッジ、エリーにエリーのパートナーであるフランス人ルイ、カナダ人のオリビアの5人が乗り込んで、小屋へと出発です。

▲何度乗ってもヘリコプター、興奮しまくります、大好きです

▲雪山の上空を5分ほど飛びます
自分の部屋
到着するなり、数日早く小屋入りしていたマネジャー、リリーフマネジャー、cookの3人が迎えてくれます。そして、自分たちの荷物や食材、備品などをケージから出しラウンジへ移動させます。そのあとはスタッフの住む棟始め小屋全体を案内してもらいます。
私たちM小屋のスタッフとして配属されたのは全てで8人。うち1人がマネジャー、次にリリーフマネジャー、cookは私を含む2人、アテンダントが4人。アテンダントの4人のうち1人はフローターと言って、隣のF小屋とM小屋を1週間おきに行ったり来たりします。常に2、3人が1週間休みを取り、小屋を回すのは5人。しかしこの小屋にはスタッフルームが5人分きっかりしかなく、休みが回って来るたびに部屋を片付け出ていかなければなりません。過去に働いたG小屋は十分にスタッフルームがあったので1人1部屋与えられていましたが、ここでは自分の部屋を持っているのはマネージャーのみです。
その話を小屋到着後に改めて聞いた時はガックリでしたが、そうなるかもしれないと知っていたので仕方ないか・・・という気分でもあります。日本の部屋の中ですれ違う隙間もない相部屋環境に比べれば何倍も良いです。
早速キッチンへ
到着して館内を一通り案内してもらい、荷物をスタッフ棟に移した後は、皆はラウンジのセッティング。私はヘッドシェフのシェリーと一緒に早速キッチンへ入ります。彼女には2年前会ったことがあり、その時はツンとした印象を受けていたので、今回一緒に働くことがわかった時は緊張していましたが、とても暖かく迎えてくれました。キッチンは、G小屋に比べえれば小さいですし、ドライストア(乾物、常温の食材庫)は4分の1以下、冷蔵室、冷凍室(walk in fridge, frizzier)も3分の1以下、キッチンにある冷蔵庫はG小屋は2つでしたがここには1つしかありません。こじんまりとしてはいますが、導線、使い勝手は良さそうです。
ガイドトリップ
私が小屋入りした翌日、4日目に当たる日は、ガイドトリップの日でした。ガイドトリップというのは、50人以上いるガイドがMトラックとRトラック2つのうちのどちらかに配属されますが、それぞれ配属されたトラックをシニアガイド先頭に歩いて研修を受けるというものです。ガイドたちは小屋に泊まってゲストの食事、サービスを受けます。これはガイドのためでもあり、私たち小屋で働くスタッフのためでもあります。ゲスト到着時のスタッフの立ち回りを確認したり、ディナーサービス時の動き方、cookである私にとっては調理のタイミング、仕込みに関して一通り流れを確認する貴重な時間です。M小屋のメインメニューは、ビーフステーキ、チキンステーキ、ベジタリアンカレーの3種類。ガイドのダイエタリーとメインメニューの希望を朝確認し、夕方の到着に向けて仕込みをしました。
雪は溶けることなく、毎日暖炉から離れることはできない寒さ。夜はhot water bottle(湯たんぽ)を2つベッドに置いて置かなければ、22時以降ジェネレーターがオフになり暖房も聞かないので、寒くてたまりません。外は・・・ガイドたちは翌朝無事出発できるのだろうか・・・というお天気です。登山道は雪崩の可能性もあるためDOC(日本でいう環境省、ドックと呼んでいる)は道を開けておらず、ガイドトリップは登山口からM小屋まで歩き、M小屋からF小屋はヘリ移動、F小屋からは歩いて登山口へ抜けるという予定でした。しかし案の定、翌日ガイドたちはヘリコプターで移動できず、M小屋に2泊する羽目に。私とシェリーは、昼の時点でも8人分のスタッフミールを作るのか、ガイド分含め23人分の食事を作るのかわからず、モヤっとしていましたが、16:30頃ヘリが飛ばないと判明してから23人分だとわかり、2人で力を合わせ(笑)野菜をオーブンに入れ、肉を焼き、サラダを作って、お米を炊いて、皆に振る舞いました。
first group
なんだかバタバタしているうちに、11月1日、営業初日、初めてのお客さんが小屋にやってきました。これから2週間近くは登山道が閉まっているので、お客さんはガイドトリップと同じように1日目に歩いてM小屋に入り、2日目M小屋からF小屋にヘリで飛び、3日目に歩いて下山というスケジュールのようです。ということは・・・天気が悪ければガイドたちのようにヘリで飛べずM小屋に2泊することもあり得るという話。さらに!翌日のグループがキャンセルになることはないため、1晩に2つのグループが泊まる可能性があるということです。
そんなことがあろうと、何があろうと、パニックになることを知らないシェリーは、非常に落ち着いており、これから半年一緒に働く事になるヘッドシェフがシェリーで本当に良かったと心から思います。彼女もこの会社では私と同じ3シーズン目ではありますが、キッチンでの経験は私より長く、最悪の事態を見越してはいますが、過剰に備えることもせず、とにかく落ち着いています。慌てることなく確実に、自分たちが置かれた状況でできる最善の選択をしています。
結局、11月1日〜5日の間に2つのグループが2泊する事になりました。ゲストたちは2晩M小屋に泊まり、夕食は基本的に同じメニューを食べてもらいました。

▲メインメニューの1つ、ベジタリアンカレー。イエローカレーペーストは使いますが、手作りです

▲メインメニューの一つ、ステーキはフライヤーで表面に焼き目をつけてオーブンで焼きます。ミディアムレア、55度

▲デザートのデーツプディングはビーガン。アイスクリームにバタースコッチソースをかけます
休み時間
ニュージーランドでは勤務時間や働き方が日本の山小屋と異なるとはいえ、cookとして小屋に入ると仕事量はアテンダントより多く、スキルも求められますし、考えなければならないことや事前準備が多く、小屋開け時は特に休み時間がしっかりと取れません。アテンダンドのように、マネジャーに言われたことだけをやれば済む、掃除してベッドメイキングして終了というわけにはいきません。それでも、シェリーやマネージャーのジェイニーは私のことを気にかけてくれ、私に少しでも長くと休み時間をくれました。
そんな隙間時間の散歩風景を何枚か載せたいと思います。

▲ブリッジとM小屋から歩いて1、2分のM湖。長袖を着込む寒さ、水は氷のように冷たいのに、キウイ(ニュージーランド人)はスイスイっと水に入っていきます

▲小屋の皆でsplit rockまで散歩した日、フランス人のルイ、怖いもの知らずです

▲森林限界手前の森の中の木は、こんなふうです

▲別の場所から撮影したM湖

▲散歩中に見つけた紫色のきのこ
長い11日間
11月5日、小屋生活が始まってから11日目の午後の休憩時間は荷造りに追われました。というもの、明日から1週間のお休みです。この小屋では2週間働き、1週間休みというサイクル。第一陣は私とブリッジで、11月6日木曜日が下山日となります。11月6日は小屋で朝から働き、昼前後にヘリで下山、オフィスのあるクイーンズタウン到着時までが勤務時間となります。次の木曜日の朝にまたオフィスへ行き、昼前後にヘリで入山し、小屋に到着するなり入れ替わりのスタッフとシフトをバトンタッチして働くという流れです。以前働いていたG小屋とはシフト、ロースターの組まれ方が違い、なかなかに面白いです。
この11日間はとても長かったように感じます。新しい場所、新しいキッチンで、新しいメンバーと働き、新しいレシピと格闘。全てが新しいと、小さなことすら飲み込んで消化するのに時間がかかりますし1つ1つが貴重な体験、それらが積み重なると11日間で経験したことが、普段であれば1か月、いや数ヶ月で経験する物事の数に匹敵し、すでにこのM小屋に1か月以上いたような気分です。
慣れてくれば時間はあれよあれよと過ぎていくのでしょう。そんな日が来るのが待ち遠しく、そうなれば自分の時間と仕事の時間をくっきりと分けて刺繍や絵に没頭できるのではないかなと、思っています。早く、そんな日、来ないかなーーーーーーーー。6シーズン目の私の経験から、全ては自分次第というのは、分かっています。
キッチンでの仕事の流れはシェリーが暖かく私の質問に一つずつ丁寧に答えてくれたおかげで、全体像がつかめた気がします。朝食のサービス、夕食のサービス、それぞれ1人でさせてもらう時間をもらいましたし、デザートやステーキのソースなど事前に作り置きしておかなければならないレシピも8割以上は一緒にさらいました。あとは回数をこなして慣れるだけ。日本でもニュージーランドでも、小屋入りしてから仕事内容を飲み込み、全体的な流れを掴むまでがストレスがかかります。その段階はクリアできたかなと思っています。
この流れを飲み込みやすいように1年目はヘッドシェフ・ケイシーが完璧に教えてくれましたし、2年目はティナと1から仕事内容を組み立てていきました。今思い返せばあの時は地獄のようでしたが(笑)組み立て方を学ぶには良い機会でした。3年目、今回はストレスが最小限な状態でシェリーと一緒に考え、力を入れ過ぎなくて良いんだと、また一つ学びました。
この辺の話は書き始めるとキリがないので、今回はここまで。
できることなら、ガイドたちの苦労話やアテンダントの皆の仕事について、皆が食事中に交わしている日々の出来事の会話、全てを知りたいです・・・。しかし、今はキッチンでの仕事に精一杯。それに1年半ぶりの英語のシャワー、感覚を取り戻してきたとはいえ、英語を四六時中聞いていると頭はぐったりと疲れます。ブリッジと1対1で話す時は自分のペースで会話ができるので、その時に彼女からゴシップを聞き出しており、私にはそれがちょうど良いです。
さてさて・・・。明日、12日目は下山日。無事下山してウィークオフに入られるように願うばかりです。

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