私の働く小屋では、朝ジェネレーターのスイッチがオンになるのは6:45ですが、ここでは7:30。部屋の明かりがつくとともに起き上がり、ラウンジへ向かいます。
まずはテーブルの上に並べられたパンと具材を自由に組み合わせて、今日の昼ごはんをセルフで作ります。その後は朝ごはん。私の働く小屋とは異なり前日に希望を聞かれ、オートミールかエッグベネディクトを選びます。エッグベネディクトを選んだ私はどんなふうに出てくるんだろうとワクワクしながらテーブルで待ちます。
たまたま席が一緒になったご夫婦とおしゃべりしていると、彼らはオーストラリアから来ているようで、私と同じ歳の息子さんは日本が大好きで今日本にいるとのこと。旦那さんは、植物を専攻していたようで、私が高山植物が好きだと伝えると、「植物を学ぶ時は、まずfamilyから覚えること。familyがわかれば、他の国や地域に行って似たような植物を見つけたときに、○○familyの植物って推測できるからね」
すごく簡単で当たり前のような話に聞こえますが、よくよく考えてみるととても良い話を聞けたなと思いました。
朝食を終えた後は、荷物をまとめラウンジに集まります。本来であれば、小屋からすぐの湖で集合写真を撮るそうですが、生憎の雨。ラウンジのテーブルと椅子を隅に寄せて屋内で写真撮影します。
小屋を出発したのは9:30頃。今日も雨、あ〜ぁ、雨です。足元ばかり見ながら雨嫌だなぁと歩いていると、いつの間にか先頭集団に追いつきます。小屋からはしばらく登りが続き、1時間もしないうちに、昨日チリのマリーナと行った湖、小屋、それから向かいの山肌を伝う滝もいくつか見ることができました。雨を浴びながら雲の中を歩いているとはいえ、霞んだ視界に現れた青く大きな湖と、森の中にちょこんと埋もれた小屋を見ることができ、私にとってちょっとしたご褒美となりました。
私「あそこ、滝流れてますね」後ろを歩いていたご夫婦「あら、教えてくれてありがとう。言われなかったら気づかなかったわよ」
雨で全身濡れている上、風もあるので寒く、早く次の小屋に着きたくてたまりません。雨をマイナスにしか捉えられず、この瞬間を楽しむことができない自分に嫌気が差しつつもきっと壮大な景色が広がっているんだろうな、リベンジしないとな、と思いながらとぼとぼ歩きます。
そんな状況でも楽しそうにしている先頭グループの4人は、「ヒーハー!」「ウーフー!」と叫びながら楽しそうに歩いています。「何て景色!」「綺麗だねー!」もちろん冗談です。
風を避ける場所がない山の上をしばらくトラバースするので、時にはガイドが「風の様子を先に見てくるのでここで待っていてください」と早足で風の強い場所をチェックしてくれました。天気予報ほど、雨風は強まることなく、無事にランチハットに到着したのは12:00過ぎ。ランチハットは私たちツアー客専用の建物になっており、ちょっとしたキッチンがあってガイドが皆に温かいドリンクを入れてくれます。
ここで、サイドウォークのひとつであるC Hillを登るかどうかガイドに尋ねられます。行きたい人はガイドと一緒に登り、行きたくない人は、小屋に向かって歩きます。C Hillは標高差があるものの距離は短いので傾斜があり、体力のある人向け。私は行こうかなと一瞬迷いましたが、天気も良くないですし登っても景色がイマイチならさっさと小屋へ行きたいと思い、行かないことに。
日本人ガイド「さやかさーん!行かないの?行っておいでよ。せっかくだよ〜。え〜。行かない?信じられない!」それを聞いていたお客さんの1人「You do YOU」私「いやぁ、いいです。疲れたんで、小屋へ向かいます」
ランチハットまでは、途中青空がチラリと見えることはありましたが、はっきりと見えるのは足元だけで、no view状態でした。しかし、ランチハットを超えると、曇り空とはいえ、目の前に大きな湖、そしていくつもの滝が見え、これぞこのトラックの見どころ!というような景色が続きます。
数十歩進んでは止まり、写真を撮っての繰り返し。なかなか前に進むことができません。雨も次第に弱まり、やっと楽しみながら足を動かすことができるようになってきました。
道中、「このトラック上での1番のお気に入りなんだ」とガイドの1人が食べられるベリーを教えてくれました。パプリカを小さくしたような形で、ヘタと茎にあたる部分がこのベリーの種。実の中ではなく外についているようです。その種を取って赤い身を食べてみると、甘すぎずパクパクと食べたくなるような味がします。
他にも、私の好きな小米草のような花を見つけました。日本の山で見ていたものとは違い、花弁は紫がかっておらず真っ白ですが、形はそっくりです。
景色を十二分に楽しんで小屋に到着したのは14:30。部屋に荷物を置き、まずはシャワーを浴びて、乾燥室に濡れた服を干します。部屋は、昨日と同じく相部屋タイプの部屋で、ひとりで参加している25才のオーストラリアから来ている子と同じ部屋です。昨日はあまり話しませんでしたが、今日は時間もあったので、部屋でゆっくり話しました。
ニュージーランド生まれニュージーランド育ちだそうですが、家族でオーストラリアに引越し、今はオーストラリアで働いているそうです。ニュージーランドの物価が高く、稼ぎもオーストラリアの方が良いそうで、家族で移住したとのこと。友達は皆ニュージーランドにいるようで、いつかはニュージーランドに戻って来たいと言っていました。
ツアーに参加した動機は、1人でどこかへ行く、1人で何かをするということをこれまでほとんどしてこず、1人で何かを成し遂げたいというのが心の中にあったそうで、この3日間のハイキングツアーを選んだそうです。このハイキングが終わったら、バンジージャンプをしたり、街から行ける1日のハイキングに行ったりと予定をいろいろ立てているそうで、「I needed this」と何度も言っていました。
今の仕事に区切りがついたら、旅行が好きというのもあり、航空会社で働いてみたいと言う話もしてくれました。働きながら旅ができるっていいじゃない?と。彼女のきらきらとした将来への希望やエネルギーをお裾分けしてもらった気分。私も彼女と同じくらいの歳の頃山が好きになり、ネットのない山の中に入る度にあれこれ考えさせられ、30歳に向けて、夢を膨らませわくわくしていたような気がします。もうあの時の自分には戻れませんが、今は今の自分なりにわくわく出来るはず。そんなことを考えさせられました。
夕食は、昨日と同じ2組のご夫婦と、もう1組のご夫婦も加わり、私含め7人で同じテーブルを囲います。初めてお話しするご夫婦は、私の話をたくさん聞いてくださり、小屋でのcookの仕事に興味を持ってくれました。なぜかって、奥様はchef!レストランやカフェをされていたそうで、イタリアで料理の勉強もされていたそうです。料理を通してイタリア語を学んだという彼女の話と、私が今キッチンでcookをしながら英語を学んでいるという話が重なり、素敵ね、素晴らしいわ、とってもいいじゃない、と言ってくださりました。
そんな会話の途中、彼女は私にこう言います。
「Now, I know your next job, cook in Antarctica!」
数年前から頭にある南極での仕事。それを見抜かれたような気がしました。「あなたと同じくらいの歳の子がちょうど南極での仕事をやってたわよ。いいじゃない。南極へ行くのよ。どうかしら」
他にも、小屋でのシフトについてや仕事内容を細かく聞かれたり、日本に行くならどこがいいか、街での暮らしと田舎暮らしの違い、ニュージーランドの国民性、そんな話をしました。私は彼女の話を聞いて、それに対して英語で答えるのに必死。気づけばメイン料理を食べているのは私だけ。参加者皆が食事を終えデザートを待ちながらおしゃべりしています。これはまずいと思い慣れないフォークとナイフで目の前の料理を片付けます。
夕食の後は、スタッフに小屋中を案内してもらったり、スタッフルームで大富豪をしたり、スタッフ用のデザート、チーズケーキをいただいたり、、、。結局23:00まで夜更かししました。
明日はいよいよハイキングツアー最終日です。天気は午後に向けて回復するようなので、楽しみです。
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