109日目〜113日目 5連勤、夏は何処へ

5連勤は1日も日記を書く気になれず時間が過ぎてしまった。覚えていることをいくつか書いておきたいと思う。

コテージパイ

109日目は従食を作るシフトだった。今年から小屋に導入されたスチームコンベクションを使って、コテージパイを作ることにした。何度もニュージーランドの小屋生活で食べたものだ。ティナがよく作ってくれていた記憶がある。私1人で全てを作ったことはなかったので、いくつかのレシピを参考にしながら、本来であれば牛肉、羊肉を使うようだが、今ある豚肉の挽肉作ることにする。

パイと言ってもパイ生地に包まれた物ではなく、2層からなるもので、下にフィリング、ひき肉に味をつけたもの、上にマッシュポテトを乗せてオーブンで焼く。マッシュポテトの上にチーズを乗せたっかたが、さぁオーブンに入れる前にチーズを乗せようかと直前に冷凍庫を開けて気づく。シュレッドチーズがない。今回はチーズなしということだ。代わりにマスタードをマッシュポテトの上に塗って、焼いてみる。これも、誰だったか、アリスかティナがやっていた気がする、いや、ケイシーだったか。マッシュポテトとマスタードの組み合わせは良い。

皆には馴染みのない料理だったので、これは何?と聞かれる。コテージパイ。ニュージーランドへ行けば毎日食事を作ることになるので、今のうちにレパートリーを増やしておきたい。

コーヒーマシーン、18号

コテージパイを焼いたスチームコンベクションは今シーズンが始まった4ヶ月前に導入されて、毎日使っているものの未だにピカピカである。金額を聞いた時は叫んでしまったが、最近は私はもちろん他のスタッフもよく従食を作るときに使っている。休み時間にパンやお菓子を焼いているスタッフもいる。そのスチームコンベクションには名前が付いていて、皆で“ジョニー”と呼んでいる。予熱や調理が終わった時はピーピーと音を鳴らすのだが、「ジョニーが呼んでるよ!」「ジョニー早いねえ」と、ジョニーは人気者で、皆に可愛がられている。

そして110日目には、ジョニーに続き新しいコーヒーマシンが来た。ジョニーと同じく横文字系の名前をつけようとするものの、良い案がなかったらしく新しくついた名前は「18号」。理由は、金額から来ているとのこと。マキアートやカプチーノも簡単に作れ、私も毎日2杯以上は泡だったミルクにコーヒーを落として、カプチーノを飲んでいる。この小屋を離れたら、18号のことが恋しくなるに違いない。

秋が始まる

111日目以降は、気温がガクンと下がって、急に寒くなった。公衆トイレのチップ集金に朝向かうと気は風が冷たく半袖では寒いと感じる。夜も長袖で寝ても暑いとは思わないし、お布団にくるまって寝るのがとても気持ちいくらいだ。もう少し暑い期間が続くだろうと思っていたがそんなことはないようだ。もう夏は終わるのだろうか。それにしても寒過ぎやしないだろうか。受付のシフトだと火(コンロ)の前に立つことはなく、玄関から入ってくる風から身を守るため長袖を着ることになる。近くのテント場で泊まっているお客さんが毎日外来入浴に来るのだが、ダウンを来てお風呂に入りに来る人も増えてきた。1500m地点の森の中でこんなに肌寒いのだから、稜線上ではさらに気温は下がっているはずだ。

112日目からは世間一般ではお盆休みで、小屋の中はとても忙しくなるはずだった。しかし、全国的に天気は崩れ、ここでもひどい雨予報が出ている。雨量が80ミリを超えると交通規制がかかり、登山客が使うバスやタクシーは動かなくなる。予報を見る限り、いつ止まってもおかしくないが、お客さんはいつも通りの雨とでも思っているのか次々に下界から登って来る。雨だと分かっていても朝には山へ出発、予定通り山小屋に泊まり夕日を見て翌日には朝日を浴びながら下山する、とそういう予定なのだろう。私たちは、そんな簡単な話ではないと分かっている。いつバスが止まるだろうか、作業運搬路がいつ土砂で通れなくなるか、左岸の通行止めも時間の問題だろうと、そわそわ。大勢のお客さんを連れたガイドさんたちも、今回の雨がそう酷いとは認識していなかったようで、夕食の後に、私たちの雨の予測ではなく、予報から起こりうる事実=バスが止まる可能性=山の中で孤立してしまう可能性を伝える。

稜線上の山小屋で働いていた5年前は、雨や台風の時は一気にキャンセルになり、小屋の中はパタリと静かになっていたような気がする。しかし、ここは森の中。バスターミナルからもある程度離れている上、山の上ではなく中間地点。雨が降ったからといってキャンセルになるのではなく、雨だけどバスターミナルからなんとか歩いてきたお客さん、上に上がりたかったけれども雨で諦め連泊したいお客さん、雨で下山のスピードが落ちバスターミナルまで間に合わないので泊まりたいというお客さん。そして雨でテント泊をやめ、小屋に逃げ込んでくるお客さん。お風呂は人で溢れかえり、しっかりと見張っていないと、宿泊者専用の看板を出していても、フラリと立ち寄ったお客さんがラウンジでくつろぎ始める。

113日目の夜から降るという雨はいつにも増して酷いようだ。いつ交通規制がかかるのか、小屋としてお客さんにどのようにインフォームするのか。なかなか決断は下されない。道を止めることで、この一帯のエリアはお盆休みに入ってくるはずの多くのお客さんを逃してしまうことになるからだ。つまりはお金だ。このエリアの一番上に立つ人もそう簡単には判断できないのだろう。私たちの小屋だけ変に判断してお客さんにあれこれ伝えるわけにもいかない。日本の村社会らしく、右にならい、過去の経験からこうなるかもしれませんとだけお客さんにお伝えし、あとは翌朝決断が下されるのを待とうという話になった。夜中から降り続くという予報の雨で、翌朝道が止まった場合は、お客さんに弁当を持たせ早めに下山してもらい、臨時の下山バスで街へ出てもらう。臨時バスが出なかった場合は、お客さんに希望を聞き、連泊する人にはゆっくりと小屋の中で朝食を食べてもらう。幾つ弁当を作ることになるのか、小屋で朝食を食べるお客さんが何人になるのか、夜の時点では分からない。翌日は何が起きてもいいよう、いつもより30分早い5:30から勤務開始という話でまとまる。こうまとまるまでも半日時間がかかった。やれやれ。まあ、私は明日休みだから、どうでもいい。

それにしても、何度“雨”を経験すれば、スムーズにオペレーションが回されるのだろうか。一緒に働くスタッフはいう、「毎回こんなんだったら、あの山が噴火したら大変なことになるね」本当にそうだと思う。

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