今日はお客さんが来る日。数え間違っていなければ、5組目のはずだ。アロマ関係の方々が集まり、初日は標高を上げてシラビソを収穫しに行く。
7月の終わり、標高が1400mある私の住んでいる森の中では、じっとさえしていれば汗をかくことはほとんどない。車で向かう先は森林限界の手前、2000mを超える地点なので、道中は窓を開けていると涼しい風が入ってきて、クーラーをつける必要もない。
私はこの管理道路をガタガタと上がっていくのは3回目。今回は運転席に座らず、窓の外の景色に集中することができた。今まで、6シーズン山で暮らしてきて高山植物、花たちには興味があったが、木には疎かった。しかし、私が今一人暮らししている山小屋の周辺にはなんといっても花が少ない。目に入ってくるものは木。おかげさまで木の葉っぱの形や樹皮の表情、枝のつき方、以前よりも気にかけるようになった。全て同じに見えていた紅葉樹も、よく見れば違うし、針葉樹だって針のような葉の長さやつき方に違いがある。これを一括りの木としてしか認識していなかった私自身が恥ずかしくなるくらいだ。だからといって木の博士になったわけではない。種類が多くあるということに気付いただけだ。
30km前後のスピードで進む車は、木の観察をするにはちょうど良い。あの葉はさっきも見かけたぞ、あれはシラビソだろうか?、さっきとは植生が変わってきたな。視覚情報を一生懸命に処理している私に、ある言葉が急に飛び込んでくる。
「シラビソの香りがしてきましたね!!!」
お客さんの1人がそう言う。そして気づく、私は匂いを全く気にしていなかった。
この日は、食事中にアロマを1滴垂らしたりして食事に香りをつけ楽しむという実験的な時間も設けられた。嗅覚は悪くはないと自分では思っているし、結構敏感な方だとは思っていた。が、味覚や視覚の方が私の頭は処理しやすいのかもしれないし、先に飛びつきやすいのかもしれない。みなさんを見習って嗅覚に集中し食事を楽しんでみるものの、私は香りの好みがはっきりしているのか、味覚を重視したいのか、会話にはついていけなかった。

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