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88日目 雪かぶる穂高連峰を見に・・・

山に呼ばれているのなら、朝きっと起きることができるだろう。そう自分と話しながら昨日の夜、眠りについた。

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何時間でも寝ようと思えば寝ることができる私は、朝起きるのが本当に嫌いで、休みの日の早起きなんてできることならしたくない。それでも、今日は起きることができた。外はまだ暗いのに、スッと起き上がって準備をする。トイレに行って顔を洗い、日焼け止めを塗って、ご飯も食べる。誰にもすれ違いたくなかったが、そんなことは共同生活をしている限り不可能に近い。必要最低限の会話をしたのち、登山靴を履いて、山に向かって一歩を出す。

歩き始めてしまったら、もう進むしかない。モルゲンロートで優しいピンク色に染まった前穂高岳を見ながら、平坦な道を1時間ほど歩き続ける。

太陽はみるみる昇っていき、空の水色は次第にはっきりと濃くなり始める。と同時に岩肌の輪郭もくっきりと見えるようになってくる。

1人で歩くんだから、ゆっくり、ゆっくり歩こうと自分に言い聞かせ、写真を撮りたかったら立ち止まるし、息が上がったらペースを落とす。

今回は蝶ヶ岳方面へ行くことにした。ピークや名前のついた場所にこだわりはなく、とりあえず稜線に出て穂高連峰を拝むことができたら、それで良い。平坦な道から上り坂になり、30分ほどで槍ヶ岳が見えるポイントに着く。この時期にこの場所を通過するのは初めてだと思う。槍ヶ岳が雪をかぶっているだけで、違う印象を受ける。この景色を見て、あ、もう下ってもいいなと思うが、今日は体の調子が良い。ネガティブな気持ちもあまり湧かず、そのままずんずんと上に進んでいく。

さらに2時間ほど歩き続けると、標高は2000mを超え、植生は針葉樹と低木の境目と言ったところだろうか。足元には粉砂糖のような雪が散りばめ始める。溶けきれていない雪が固まって、さらりと岩や苔、木の葉っぱの上にのっかっている。足元には霜柱が至る所にできており、ポールでつついては遊びながら前に、いや上に進んでいく。パラパラっと土から外れるのが楽しくて、道中視界に入った霜柱は全てつついたと思う。

そんなこんなしていると、森林限界に到着、そこから10分程度だろうか最後の登りをヒィ、ヒィと言いながら登り、稜線の上に出る。はぁ、やっときたよ〜、山に呼ばれてここまで上がってきたよ〜、最後にきたよ〜、山に挨拶をする。

雪を被った穂高連峰は、夏にはない魅力がある。この景色を見ずに今シーズン終えてしまうところだった。山が呼んでくれたおかげで、この景色を目に焼き付けることができた。

何度も見ている景色だし、あっちの山やこっちの山、たくさん良い景色を見させてもらったし、と思ってしまうのか、10年前に登山にどっぷり浸かり始めた時ほどの高揚感はもうない。それでも、画面上の写真で過去の山行を振り返るのとは違う、今の自分にしか感じ取ることのできないものを、標高が高いところに流れている風が私に届けてくれる。

稜線上では風が西側から吹き上げて、背の低いハイマツが音を立てずに揺れる。立っていると寒くて、私は周りより背の高いハイマツを探して、その陰に隠れ、持ってきたちまきを食べお腹を満たす。結局食べて写真を撮って1時間程度休憩し、下山開始。

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程よく疲れ、小屋に戻った後はお風呂に入り、のんびりする。最後に山に登ることをして、良かったと満足。誰かに言われたわけでも、無理をしたわけでもなく、山に登ろうと自然に体が動いた一日。これでよかったんだと、すっと自分の中で気持ちが、まとまったような気がした。

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