今日は1日小屋で過ごせる最後の日である。昨日、嫌々ながらも掃除をほとんど終わらせたので今日やることは片手で数えるほどだ。いつだったか、厨房の中で“ちゅうさん”を見かけたのでその対策として“餌”を設置。それから、冷蔵庫の中の食料を片付ける。持って帰ることができるもの、冷蔵庫・冷凍庫の中に放置しておいて良いもの、処分が必要なものに分けて、整理していく。私が去った後も小屋には電気水道ガスは通っているし、数日後にはスタッフやお客さんが来る予定があるとのことだ。完全に小屋閉めをするわけではないが、次誰が入ってきてもいいように片付けをする。
私がこの1ヶ月間住まわせてもらった山小屋は50年ほど前に山小屋としての運営が始まったそうだが、その歴史の中でも1人で管理人として小屋に住んだというのは、私が初めてかもしれない。宿泊施設としてこの山小屋が活き活きとしていた時に、足を踏み入れてみたかった。この1ヶ月の間に何度そう思ったことか。今や蜘蛛の巣だらけ、コウモリも住んでいるし、建物のあちこちに隙間がある。それでも、小屋そのものの温かい雰囲気は残っている。登山や釣りをする人たちが残していった言葉は宿泊者ノートにびっしりと詰まっており、読んでいると宿泊者たちの笑い声や夜に夕食を囲んでそれぞれの体験を共有するような話し声が聞こえてくるような気さえする。働いていたスタッフが書き残していた言葉もあった。その方は20代の多くの時間をここで過ごしたようで、働き始めた頃から最後の年までの7年間だったか、小屋に対する暖炉の火のようなあったかい想いが綺麗な字で丁寧に綴ってあった。彼女は今どこに住んでいるのだろうか。この建物は向かい入れた人たちのことを今でも覚えているのだろうか。これから50年先もこの建物は残っているのだろうか。
お昼、Tさんがやってきた。彼は他の用事でこの小屋の周辺に来たそうで、ついでにと立ち寄ってくださる。今日の私の貴重な話し相手の1人だ。冷蔵庫の中に残っているアイスクリームを2人で食べ、1ヶ月間どうだったかと話をする。どうだったかとこの数日お客さんや他のスタッフさん、Tさんに聞かれるが、一言で返せるような質問でないので、外国人がすれ違い際に聞くhow are youのように軽い気持ちで私に聞かないでほしい。とは返せないので、短いようで長かったですね、とか、貴重な体験になりました、とか、誰でも返せるセリフを言ってみる。
Tさんが帰った後は、完全に1人である。自分の荷造りをし、やり残したことはないか、ふらふらとする。余った食材を1日かけて食べ続け、googleのスプレッドシートに1ヶ月間の気づきや引き継ぎ内容を書き出してまとめる。
夜は映画でも見たかったが、本当にwifiの調子が悪くて、映画をダウンロードすることができない。私が寝る部屋ではwifiが繋がらないので、夜映画を見る場合は、日中に繋がる場所でダウンロードしておくようにしていたが、この数日、いやこの1週間、LINEでさえつながりが悪く思うようにインターネットにアクセスできない。それならそれでと、そそくさと寝ることにする。
明日は6:30にはここを出発したい。その前にご飯と納豆を食べ、軽ダンプの後ろにリネンやゴミを詰めなければならない。ペーパードライバーの私、山の中で数回オフロードを走ってきたが、街中を1人で走るのは初めてである。山から街まで4時間、無事に運転できるだろうか。
【本日会話した人間の数、2人】

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