【ハケの出番なし、掘る切る運ぶ】発掘調査員日記②

発掘調査員としての3ヶ月間を時系列に沿って仕事内容別に紹介している(※素人による)発掘調査員日記。第1回では、掘り作業前の下準備時点の話をしました。今回は第2回【ハケの出番なし。掘る切る運ぶ】、早速掘り作業について順に書いていきます。

 

古墳時代のお墓

今回発掘するのは、古墳時代のお墓。竹藪の斜面のひと区画だけを掘ることになっていますが、その区画内外にいくつか人が縮こまって入れそうな穴があり、古墳時代の(古墳ではない)お墓ではないか、お墓であればその時代の副葬品も出てくるのではないか、と職員さん。

「でも、あんまり期待はしないでくださいね・・・!」

出てくるなら、勾玉?須恵器?古墳時代っていつだっけ?掘り作業中も休憩時間も職員さんへ皆で質問攻め。あれこれ教わり、皆で知識を交換し合います。近隣の住民の方々は防空壕かと思われていたようですが、職員さん曰く、防空壕であればすぐに逃げられる場所に造るはずなので、立地的に防空壕とは考えにくいです、とのこと。

全て手作業

お墓だと思われる穴はこの付近にいくつかありますが、工事範囲と重なっている部分だけを発掘していきます。工事範囲外は、お墓ではないか?という場所であっても掘り返すことはしません。その理由は“発掘調査はできればしたくないから”。前回の記事にそれについて書いているのでここでは説明を省略。詳しくはこちら

まず始めに工事範囲内で掘っていく場所がどの辺なのかや、作業の手順についてざっと説明を受けます。素人が見る限りそんなに広くないので、なぜ8人でこの面積を数ヶ月かけて掘るのか、疑問に思いました。

しかし、掘り始めてみると、なるほど、これは時間がかかるわけだ・・・!とすぐに納得。思わず「こりゃあ時間かかりますね!!!」と言ってしまったほど。

全てが手作業なのです。

発掘調査期間が終わる頃に知りましたが、重機を使うことができる平地での作業であれば、(発掘調査用の重機があるらしく)棘のついていないショベルで徐々に掘り進めるそうです。しかし、今回のような斜面上の現場(珍しいケースだそうです)だと、場所的に重機を入れることができないので、手作業で全てを行わなければなりません。

掘る

剥がすように掘っていく

ただ掘るのであれば何ヶ月もかからないのかもしれません。発掘調査に携わってみて今思い返すと、掘るよりも剥がす、または削る、の方が表現としては正しいように思います。また、穴を掘る、土を掘ると聞いて思い浮かぶのはこれまでスコップでした。しかし、発掘調査中主に使うのは、手ぐわと手がき。その2つを使い分けながら土を一層一層剥がすように掘っていきます。これが時間のかかる要因の1つです。

部分的に掘っていく

掘る箇所も、よーいどん!で各々好きな場所を四方八方掘っていくわけでは、もちろんありません。職員さんの指示に従い、今回であれば横穴墓(古墳時代のお墓)の周辺をいくつかの区画に分けて順々に掘っていきます。この時、現場での指示や会話中は上下左右とも言いますが、記録に残す際は東西南北を使います。例えば横穴墓の東側から、西側から出てきた遺物として記録に残し保存します。

私が最初に割り振られたのは、横穴墓向かって右側。職員さんが移植(ごて)の先端で掘る箇所をこの辺りからこの辺りまでと線をひいたり、時には水糸を張って、決められた範囲を順に掘っていきます。

土を観察しながら地山まで掘っていく

掘っていると土の色や乾燥している土から粘土質の土になったりと変化があり、その都度掘り進めるべきか中断すべきか指示を仰ぎます。最終的に辿り着くのは、地山。自然のままの地盤です。その地山の上には流れてきた土や人為的に埋め戻された土、表面に近づけば植物や植物の根、落ち葉など・・・。一層一層剥がしていきながら堆積状況を確認しつつ、掘っていきます。

と、ここまで書いてきましたが、考古学も地質学も勉強したことはなく、全てが新鮮。とにかく言われた通りに掘るのみです。職員さんやベテランさんに聞きながら1つ1つ覚えて(は忘れ・・・)手を動かし、分からなくなれば聞き、の繰り返し。普段使わない単語が右から左に流れていかないよう、今にも溢れそうな脳みそを回転させ、手に力を入れて剥がすように掘り続けていきます。

実際に掘った横穴墓の写真

実際の掘っていた時に撮った写真をいくつか載せておきます。

こちらがその横穴墓。本格的な掘削作業前に報告書用に職員さんが撮影していた時の写真です。

ご覧の通り、既に掘ってある斜線部分は試掘段階で掘り上げていた部分です。ここを、このように4等分にして順に掘っていきます。

作業途中。写真に写っていない周りの部分も掘りながらですが、ここまで掘るのに1ヶ月近くかかっています。


上2枚と異なり横穴墓向かって左側から撮影

そして、最終的にはこのように地山まで全て掘ってしまいます。

切る

剥がすよう掘る…と何度も書いてきましたが、ここは竹藪。これでもか!と叫びたくなるほど土の中で竹の根が絡まり、掘るのを邪魔してきます。掘っては根を切りの連続。細い根は根切りバサミ、太い根はのこぎりを使って切り落としていきます。

掘る時と同じように、根っこが出て来たからすぐに切る、というわけではありません。太い根の上と下で土の層が異なる場合は、職員さんやベテランさんにここは切るべきか、周りからから攻めていくべきか確認します。

「この部分、切っていいですか?」

運ぶ

こうして掘り作業を進めていくと、溜まっていくのは土。この土はどうするかというと、土のう(袋)に入れて、脇に積み重ねていきます。袋いっぱいに入れると重くて運び辛く、また紐を結び辛くなってしまうので入れ過ぎ注意です。結び方は、職人技のような手つきで結ぶ先輩方に教えてもらいます。(この時、ついつい山小屋でごみ袋の結び方を同じように教わったなと思い出しました)

この土のう、1つ運ぶならなんてことありませんが、次から次に溜まっていくので、土のう置き場へ運ばなければなりません。


日に日に積み上がっていく土のう袋


 

掘って切って運んで。斜面での作業なのでふとした場面で踏ん張ることも多く、1日の終わりには、あちこちが痛くなります。面接時に聞いていた通りなかなかハードな発掘作業。ハケの出番が来ることはありません。力仕事ではありますが、外での作業は土埃を吸いながら太陽の光を浴び、歴史や地質学的なことも学ぶことができるので、楽しく健康的です。(笑)

以上今回は、掘り作業についての簡単な話でした。第3回は地中から遺物が出てきた場合の話!それではまた!

 

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