【20日目】早朝と夜の過ごし方

お客さんの数と、日の出に合わせた朝食時間によって早番の時間は変わる。今日は3:30。下界なら、夜更かししてさぁ寝ようという時間だ。

山の朝は早い。眠い目を擦りながら、朝食の準備をする。早番は数日おきに順番が回ってくるので、毎日やっている昼営業や夕食の仕込みに比べて、なかなか早番の作業を覚えられない。中途半端に起きた頭を必死に回転させる。

そうこうしているうちに、お客さんはザックを背負って2階から降りてくる。朝食を小屋で食べていくと、その分小屋出発の時間が押してしまうので、お弁当を注文して、さっさと真っ暗な中出て行く人も多い。

早番の唯一の楽しみといえば、窓越しに見える朝日だ。太陽が顔を出すのを、お客さんと一緒には見てられないので、働くふりをしながらチラッと見るだけだ (遅番だとギリギリまで寝ることが優先されるので朝日は見逃すことが多い)。

私がこの山小屋で働こうと決めた理由はいくつかあるが、その1つは小屋からの景色だ。稜線上にあるので、視界を遮るものはなく、食堂からの景色でさえ、簡単な言葉で済ませるなら、”絶景”だ。朝ごはんを食べながら、お茶をしながら、雲海を眺めることができるのだ。

梅雨明け宣言が出た今日はこんな景色だった。


奥には、北アルプスの朝日岳、鹿島槍の猫耳、白馬岳が並んで見える

稜線上なので夜の散歩も楽しい (それだけ風の影響を受けやすいということでもある)。今日は天気が良く雲も少ないので月明かりを浴びながら、ヘッデン無しで山頂へ行った。

森林限界より上、私がいる2800mを超える小屋から山頂への道のりは、足元にハイマツの枝や大きな岩がゴロゴロとある。満月が近く明るいとは言えど、油断すれば躓くような場所は多いので、一定のペースで山頂を目指す。

凍えるような寒さではない。心地よい寒さの中、月に照らされる雲海をぼーっと眺める。

夜をこんな風に過ごすのは山小屋で働き始めてからだ。山小屋泊(またはテント泊)だと、日が沈むと共に眠気が襲ってくるので、夜中に起きて星を見たり、夜更かししたりすることはない。山小屋での生活リズムに慣れてきた今は、雨さえなければ上着を羽織って外を散歩するようにしている。日中は賑わう山の上も、月の高さが上がるに連れて、静けさを増す。

不思議なことに、日中は周りの山々が果てしなく大きな存在に思えるが、夜になると山が小さくなったように思える。それだけ、夜の空は宇宙のように広いのだ。

こうして、1日の全てがリセットされる。これも、山小屋で働く楽しみの一つかもしれない。

 

 


小屋前のナナカマドも満開を迎えた

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